タコノキ

実がなる

2023-01-01から1年間の記事一覧

歳末のよろこび(二)

月日の経過を正しく体感する術はない。月日の経過を振り返るとき、それはいつも短すぎるから長すぎるかで、「よし、予感どおりにあれそれの日から十日経った。あの日から今日まで十日とは実にしっくりくる」とはなり得ない。十日間を振り返るときは必ず「ま…

腰が痛いこと

腰が痛い。痛みがあることで、わが身体には腰という部位があったことを初めて意識する。腰というのはそういう部位であろう。 そうして腰への意識を向けながら日々の家事をやっていると、何気ない動作が腰に負荷をかけていることもわかってくる。立つ座るの切…

歳末のよろこび

年が明けるよりも終わるほうがワクワクする。だいたい皆そうだと思う。正月が来ることよりも、大晦日が来ることのほうが良い。新しい一年には大した期待もなく、今年が終わることに皆興奮している。毎年そういうものである。 にもかかわらず祝いの言葉はハッ…

回想: 学部3年生のころ

転学を考えた。まあ、ただ単に今の学校の教授とうまくいかなかっただけ、もっといえば自分自身がうまく研究室というものに付き合えなかっただけである。場所を変えれば全然違うことが待っていると思った。某大の先生にメールした。会えることになった。 長い…

短いの三本

自由な人 人は皆いつでも力を振るう場所を探している。力とはその人が持つすべての力である。人は皆力を使いたくて仕方がない。暇つぶしと呼ばれるものがこの世に溢れているのも、余らしている力をどこかに発散させる必要があるからだ。 己の力を存分に振り…

ドラム式洗濯機のこと

金曜日 曇っているし、冷えている。昨日は雨が降った。朝の通りには人が少ない。まばらに歩いている人たちは皆一人で急いでいる。おれはなんの調味もしないままの食パンをかじりながら駅に向かっている。 歩きながら、出がけに運転予約をかけた洗濯機のこと…

街の汚れについて

山手線が浜松町駅をすぎたあたり、窓から見える運河に舟が沢山留められている。流れを外れた狭いくぼみは周囲の高架と建物で薄暗く、水は当然綺麗とは言い難く、留められた舟も薄汚れて見える。 山手線も古い駅はそう綺麗でもない。コンコースは見目よろしく…

通勤中

人は距離を克服してなどいない。ただ、可能になっただけである。遠くに住む人は遠くに住む人のままであるし、山の向こうもまた、山の向こう側のままである。 情報処理技術についても同じことが言えはしないか。複雑なことが可能になっただけであり、世の中が…

年長者たち

朝の電車 よく晴れた休日の朝、電車に乗った。平日と比べたらずいぶん空いた車内で、4,5人の婆さんたちがおしゃべりしている。こうして歳いった人たちの話をそばで聞くたびに思うが、本当に楽しく純粋に友達と「おしゃべり」することは、老いて初めてできる…

暮らしについて

一 外に出るとヘリの音がした。雲に覆われた月のあたりを飛んでいる。寒くなった。 商店街で買い物をする。がま口に小銭をたんまり入れて持ち歩く。軒先に並んだ商品を小銭と交換していく。外に出て、家の様々な状況を思い出す。例えば冷蔵庫の中身、トイレ…

会社で自主的にふるまうことについて

会社で働くのが好きな人間というのは確かにいる。それも別に数が少ないわけでもない。それなりに、普通にいる。そういう人は「人を巻き込む力」なるものを重視しまたそれを発揮する人を好む。これはなにも働く人の間にだけ働く力ではない。別に会社で働く気…

いつもどおり

夕餉を済ませ、食器や調理器具の片付けもおおかた終わったころ、ふと銭湯の熱い、大きな風呂が恋しくなったので出かけることにした。湯桶にタオルと着替えを入れ、小銭だけを持ち一人で家を出る。 靴を脱ぎ、靴箱に鍵をかけ、番台へ小銭を渡し、すぐさま浴場…

鼻毛を初めて切った日

鼻毛を初めて切ったのは大学2年の頃だった。それまで私は鼻毛のことなど気にしたことがなかったし、人は定期的に鼻毛を切るものらしいことなど思いもよらなかった。20年弱にわたり誰にも鼻毛が出ていることを指摘されたことがなかったか、されたとしてもいつ…

AM休に散歩する、職場の自分を思う

愛想 ゆっくり歩こう。ゆっくり返事をしよう。半笑いでごまかすのをやめよう、愛想がないことは愛想がないことではない。愛想とは顔の表情や声色のことではない。いや、ではあるかもしれないが、人を愛して接するとは、愛想をふりまくことではない。感情だけ…

使い切りの電池ってなんかかっこいいじゃん

ニカド電池というのを最近聞かない。調べてみるとカドミウムの毒性が取り沙汰されて以来、別の電池への代替が進んでいるらしい。 小さい頃買ってもらった車のラジコンにはニカド電池が使われていた。電池を取り外して、専用のアダプタか何かに差して充電する…

9月から10月

誘われる トイレに行きたかった。行き先まで急ぐ必要はなかったので、駅のホームのトイレに寄ろうと思っていた。 目の前に電車が来た。発車ベルが鳴った。飛び乗ってしまった。トイレに行きたい。これはなんの誘惑に負けたのであるか。 往復する 私は地下鉄…

元気に過ごそう七本立て

朝の電車を見送ろう このホームから空を眺めて風を感じるのが好きだ。でもただの列車風かもしれない。 晴れでも雨でも気持ちいい。 駅のベンチに腰掛ける。これは先送りだ。見送らなくていい電車を何本か見送って、行かなければならない駅へ行かずに途中でぼ…

車中の記録

退屈によせて 平日の朝。退屈で退屈で、つまらない用事ばかりがこれでもかと押し寄せる予感でいつも死にたくなる。こんな気持ちで出社する人間でも重用されたりするのだからまったくおかしい。まさしくキェルケゴールのいうとおりである。「世間に重きをなし…