タコノキ

実がなる

具合の悪そうなおじさん、めっちゃいる

会社に行くと具合が悪くなる。
際立った不調を即座に訴えるような、例えば家を出ようとするとお腹が痛くなるとかそういうことはないが、会社にいる間の体の不調をつぶさに観察すると大体以下のような具合である。

朝自席に着くとまず今日やることはなんだったかと考えて、予定表を見たりする。
が、手をつけるべき作業がなかなか思い当たらない。意識がはっきりしていない。
予定はある。しかしそれを消化するにはどうしたらいいかが即座に思い当たらない。15分くらいぼんやりしてようやく手を動かし始める。
人に用事を話しかけたり、人に話しかけられたりする。
このとき、あまり流暢に言葉が出てこない。
いつもおれは眉間に指を当ててうつむき、必死に話すべき言葉を探る。あーとかうーとか言いながら状況をなんとか説明したり、次にするべきことをとりあえずひねり出したりする。
外に出かけて作業をすることがままある。
パソコンを入れたリュックが重たい。歩いていると背中が引っ張られて息がしづらくなってくる。踵に負荷を感じる。靴底が薄く感じる。足が痛い。
目的地に着いたら荷物を開け、パソコンを机に置き、目の前の環境の種々の問題に対処しようと試みる。
するとなんとはなしにイラついてくる。
出がけに買っておいた固ったいグミをにぢにぢ噛み始める。
作業がひと段落すると、次の作業が目の前に現れてくる。さてどこまで手をつけようかと考えるが、もうそんな元気はない。
どこまでやったとメモだけして、出先から帰ることにする。
作業を終えて事務所へ帰る。
行きもリュックは重かったが、帰りになるといっそう重く感じる。帰り着くと目の奥がぎりぎりと痛む。
ディスプレイがよく見えない。
目がじゅうぶんに開かない。テキストが二重に見える。眠気が突然頭を殴りつけ、たびたび気を失いかける。奇怪なストレッチなどしてみる。
夕方の事務所で明日のことなど考える。
そうすると大体今日やり忘れたことが一つや二つ出てくるので、嫌々手をつける。
このあたりでめちゃくちゃため息をつく。
もはや背筋を真っ直ぐに座っている気が起きない。おれは背もたれによりかかり天を仰いでいる。
日が落ちて帰り支度をする。
頭はろくに働かず、散らかした机を片付ける順番がよくわからない。
ゴミを先に捨てた方がよいのか、パソコンを先にしまったほうがよいのか、どっちでもいいことに悩んでうろうろする。
こうして一日が終わる。

こんな有様をもはや隠すこともしなくなった。
働かない頭のまま適当に喋ることも怖くなくなった。
手がつけられない仕事は全部部下に任せるようになった。
どんどんふてぶてしくなる。目上の人間に畏まるのももはや面倒くさい。事務所にいるとあー、ッスねぇ、みたいな話し方しかできなくなった。
それでもなるべく仕事はする。なぜか?
会社にいる限り、仕事をサボるよりも仕事をする方が容易いからだ。会社にいるとき、おれはなるべく容易い振る舞いをする。容易くできることだけをする。
自分がここにいる限り、なるべくこの先も容易くなるように、そのことだけを考えている。辛いことは一切しない。

会社にいると具合が悪くなっていく。
それは安逸なことだけをやっているからだろうか。いっそ粉骨砕身の覚悟を決めるほうが元気なのかもしれない。
そうなると、会社で妙にハツラツ元気な人というのはおそろしい。
でも、具合の悪そうなおじさん、めっちゃいる。
だからおれのやり方は間違ってないと思う。